創作民話 へそ二つ
2022-10-29


じいたんのお腹には、おへそが二つある。下腹の真ん中に大きくりっぱなでべそが一つ。その右横にもう一つ普通の大きさのでべそ。
ん〜、普通の大きさがどのくらいと聞かれても、答えようがないんだけど、おらのでべそとおんなじくらいの大きさだ。
 なして、じいたんはおへそが二つあるかって?本当のことは知らねえんだけども、じいたんが話してくれた話を聞かせてあげっぺ。
 じいたんがちっけえころ、そう田植えの時だったそうな。じいたんの父ちゃん、母ちゃんが田んぼの泥の中に入って、一生懸命早苗を植えていた。じいたんは、畦の背負いかごの中に入れられて一人遊びをしていた。そのうちに一人遊びもあきて、小さな寝息を立てはじめた。
 母ちゃんが腰をのばして、手の泥がつかないように腕で額の汗をぬぐった時、にわかに雷が鳴りひびいた。雷んときに、水の中に入っているのは危ない。父ちゃんも母ちゃんもあわてて畦に這いあがった。
 そんで、かごの中の赤ちゃんはどうしたかとのぞいてみたところ、あの大きな雷の音にもかかわらず、相変わらずすやすや眠っていた。ところが、着ぐるみがはだけた下に、かわいらしいお腹が見えていたんだけど、あれっ、へそが見えねえ。
 母ちゃんはびっくらして、よくよく見てみたんだが、やっぱりへそがねえ。
「こりゃあ、雷さんに盗まれたにちがいねえ。」
父ちゃんは、そういうが早いかかけだした。
「あれえっ、おまえさんどこさいくんだあ?」
 母ちゃんの声が聞こえたのか聞こえないのか、父ちゃんはもうどんどん走り去っていった。
 安良川の爺杉の根もとまで来ると、父ちゃんは叫んだ。
「天狗さまあ!おらの息子のへそが、雷さまに盗られてしまった。取り返しに行きてえんだが、力を貸してくんねえか。」
 天狗さまは、ちょうど昼寝をしていたから、「ああ、面倒来せえなあ。後でまたこいや。」と、いい加減な返事をした。すると父ちゃんは、「そんたらこというなら、爺杉に火をつけっと!」と大声で叫んだ。
 これには天狗さまもびっくり。爺杉に火をつけられたりしたら、寝る場所がなくなるばかりでねえ。天狗さまっちゅうのは、そもそもこの爺杉から力をもらって、妙力を発揮できるからな。
「わかった、わかった。それではお前を雷のいる雲の上に飛ばしてやるから、あとは自分でなんとかせい。」
 天狗さまは大うちわをとりだし、父ちゃんをひとあおぎした。
 ひゅるる〜。
 父ちゃんはクルクル回りながら、青空に飛んでいった。あっという間に爺杉が小さく見え、遠くに、赤ん坊を抱いてオロオロしている母ちゃんの姿が見える。そのうち、田んぼの横を流れる花貫川がミミズくらいの太さになってきた。そして、雲の上にすとんと落ちたのだ。
 雲の上では雷さまが、久しぶりに立派なでべそを手に入れたので大喜びしていた。七輪で火を起こし、ほかのおへそと一緒に串にさして、さあ焼いて食べようかとしていた。そこへ、父ちゃんが突然降ってきたから、こんどは雷さまがびっくらこいた。
「ギャヒャ、何が起こった。」
 父ちゃんは、とっさに雷さまにしがみついて、「こらあ雷さま、おらの息子のへそを返せ。」と怒鳴った。その拍子に、父ちゃんにつかまれていた雷さまの虎の皮のパンツが、するりと脱げてしまった。
 お尻を出したまんま逃げ回る雷さまを、父ちゃんは追いかけた。
「わかった、わかった。いまからおめえの息子のへそを返しに行くから、許してくれ。」
 雷さまはそういうが早いか、稲光になって地上に降っていった。
 ピンヒャラ、ドッシーン
 雷さまのいなくなった雲の上で、父ちゃんは茫然としていたが、我にかえるとはるか下に小さく見える爺杉に向かって叫んだ。
「おーい、天狗さまあ。おらを地上にもどしてくれ。」
「なんとも面倒くさいな。しかたがない。」
 天狗さまは、大うちわをふたあおぎした。すると、父ちゃんはひゅるるる〜と落ちてきて、爺杉の梢にひっかかった。

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